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地域循環共生圏を知ろう

環境保全と地域活性化を両立するコウノトリがつなぐ地域の輪

インタビュー画像1
柴折 史昭さん:特定非営利活動法人とくしまコウノトリ基金 理事(写真左)
森 紗綾香さん:特定非営利活動法人とくしまコウノトリ基金(写真右)
柴折:

私たちが活動を始めたきっかけは、2015年にコウノトリが徳島県鳴門市で繁殖行動を始めたことです。2015年5月には「コウノトリ定着推進連絡協議会」を立ち上げ、2019年にはコウノトリの保護を通した地域農業や地域経済の活性化を目的に「特定非営利活動法人とくしまコウノトリ基金」(以下「基金」という)を立ち上げました。

2016年に環境省の地域循環共生圏づくりの支援を活用し始めた当初は、活動の主体は協議会でした。2019年以降は、基金が中心となって地域プラットフォームの運営を担い、コウノトリの保護と地域発の事業を繋げるための様々なチャレンジを進めてきています。

私たちの活動の目的は2つです。1つ目はコウノトリの定着と繁殖を支えること、2つ目はコウノトリと地域の共生を通じて、地域活性化をはかることです。

コウノトリは、農村から離れては生きていけないし繁殖もできない、非常に特殊な生き物です。そのため、農村との共生は不可欠です。また、コウノトリは完全動物食なので、農作物の食害の心配はありません。

こうしたコウノトリの性質があるからこそ、コウノトリと地域のwin-winの関係を目指すという目的をはじめから掲げることができたと思っています。別の性質を持つ生き物であれば、また違う作戦を考える必要があったかもしれませんね。

コウノトリと農村を守るために奔走した、協議会設立当初

協議会として最初の活動は、何はともあれコウノトリの定着・繁殖を実現するための活動でした。

まず、コウノトリが通電している電柱に営巣してしまったので、電力会社と交渉して、営巣した電柱に電気が通らないようバイパス工事を行ってもらいました。皆さん快く対応してくださったのが、いまでも印象に残っています。

農家の皆さんは「あんなに大きくて綺麗な鳥が、自分たちのれんこん畑に来てくれるなんて」と非常に喜んで見守ってくれる人が多かったです。

ですが、コウノトリの件がニュースになり、やがてものすごい数の見学者とカメラマンがやって来るようになり、一部の人は農地に入り込みトラブルを起こすようになりました。それによって「コウノトリは可愛いけれども、こんなことになるんだったら、もう来てくれなくてもいい」という言葉が、農家の方から出ることもありました。

この状況に対応するため、「コウノトリと農地の保護に協力してください」という看板を沢山立てました。それでも無視する人はかなりの数いたので、そういう人たちとは直接粘り強くコミュニケーションしていました。

こうした取り組みを経て、今では迷惑行為をする方はずいぶん減りました。また、私たちの努力は農家の皆さんも認めてくれると感じます。

コウノトリの餌場を守りながら、農家の経済的メリットにもつなげるための『コウノトリれんこん』

柴折:

元々徳島県では、コウノトリのコの字も無い時から、エコファーマー認定制度をはじめ、環境に優しい農業を推進していました。こうした取り組みがあったからこそ、徳島県鳴門市にはコウノトリが繁栄するための安定的なえさ場があったと言えます。

ですが、2015年当時エコファーマーの数は頭打ちになっていました。そこで、コウノトリの飛来をきっかけに、もう一度盛り上げたいと考えていました。

エコファーマーになるためには、農薬を減らし有機肥料を中心にすることが必要ですが、こうすることで収量が減ったり、品質が安定しづらくなったりと、手間がかかります。こうした努力を農家の皆さんにしていただくので、それに見合うような価値を収入面でお返しできないかと考え、JA徳島北が中心となって『コウノトリれんこん』というブランドを立ち上げました。

無印良品さんの京都山科店では『コウノトリれんこん』として青果売場で売ってくれています。こうした、「徳島県産のれんこん」ではなく、『コウノトリれんこん』として売ってくれる事例をもっと増やしていきたいです。

また、徳島のれんこんは、ほとんどが京阪神市場に出回るのですが、『コウノトリれんこん』は関東市場でも流通することを目指して活動しています。販路を新たにつくることは難しいですが、現在いろいろな試行錯誤を重ねているところです。

2021年度には、地域循環共生圏構築事業を通して、京阪神市場と関東市場でのPRをやりました。その取り組みを通して、レストランのシェフや野菜ソムリエの方に『コウノトリれんこん』を知ってもらい、「どうやったら手に入れることができるんですか?」と聞いてもらえるようにまでなりました。

こうした声をさらに増やしていくことで、新たな販路の拡大にも繋がっていくのではと思っています。

コウノトリの画像
NPO活動で造成したビオトープで餌を食べるコウノトリ

地道な情報発信を通して広がる、協力者の輪

柴折:

基金のスタッフたちと一緒に、日々のNPO活動で企業や地元の団体などと話をする中で、取組の協力者が増えてきています。連携したい団体などをこちらから訪問して話をするだけでなく、会議やシンポジウム等で出会った人、地域のメディアでの発信内容に興味を持ってくれた人など、取組を発信する中で協力したい人に出会うこともあります。

協議会・基金の活動の中で、コウノトリを守るための活動であるビオトープ作りが、一番時間もお金も労力もかかっています。こうした活動を情報発信することで、「ウチの商売で何かできることがあれば、ぜひ協力したい」と言ってくれる事業者さんも少しずつ出てきました。

共生圏の活動を通して開催したワークショップでの出会いから繋がったこともあります。例えば、アオアヲナルトリゾートホテルの「SDGsコウノトリ応援 宿泊プラン」は、ワークショップでの出会いをきっかけに実現した取り組みです。

SDGsコウノトリ応援 宿泊プラン
柴折:

株式会社本家松浦酒造場さんとの日本酒づくりの取り組みは、私たちからお声がけをして始まりました。

松浦さんは地域との繋がりを重視してお商売をやりたいという意欲を持っている方であること、コウノトリの繁殖地の地元と非常に近い場所に酒蔵があることなどを踏まえて、企画を持ち込みました。

コウノトリに全然関心が無くても、お酒の好きな人たちはたくさんいます。お酒をつくることで、これまでコウノトリに関心がなかった人にもコウノトリのことを知ってもらいたいと考えました。また、お酒の代金の一部がコウノトリのために使われるという仕組みを作れば、地域経済にも環境にも良い取り組みになる。

ビオトープ米でお酒を作るプロジェクトの循環図

こうした私たちの思いと非常に近いことを松浦さんも考えておられたので、「やろう!」となってからはとんとん拍子に進みましたね。

日本酒『朝と夕』

※「ビオトープ米でお酒を造るプロジェクト」で販売された日本酒『朝と夕』。1年目〜3年目までのラベルを並べると、求愛からひなの巣立ちまでのストーリーになっている

柴折:

地域の人を巻き込む時に大切にしていることは、なるべく早く成果を見せることです。地域住民の皆さんや事業者の皆さんから、協力されっぱなしではなく「ちょっとですが、ステップアップしました!」ということを可能な限りこまめに報告するようにしています。私も県庁時代に補助事業を沢山運営していましたので、お金を出した後がどうなっているのかはやっぱり気になるんですよね。

また、マスコミの皆さんとも良い関係をつくれていると思います。特に地元テレビ局や徳島新聞さんとはとても仲良くさせてもらっていて、「こんなことができました!」ということは頻繁に報告するようにしています。

一方で、私たちの活動に協力してくれている事業者の皆さんは増えてきているけれども、まだまだ数が少ないとも思っています。

「これは、地域としての取り組みです」と言える状態にはまだ至っていないと思うんですよね。地域の中のごく一部の《点》でしかないので。それを《線》にしていき、最終的には《面》にすることをやっていきたいです。

それを実現しようとすると行政が事務局を担うコウノトリ定着推進連絡協議会では限界を感じたため、地域循環共生圏構築事業を活用して、より機動的で資金を集めやすいNPO法人のとくしまコウノトリ基金を立ち上げたのです。

今後、さらに企業との連携を増やしていくことを目指して、認定NPO法人化も検討しています。私たちの財政基盤は民間団体の助成制度や環境省の支援制度、皆さんからの寄付金などに支えられていますが、まだまだ脆弱です。私たち自身が自立しない限り取り組みを続けることはできません。私たち自身がより強くなるためにも、経済的な自立のための取り組みを継続していきます。

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