第4回 ローカルSGDsオンラインセミナー
開催レポート

-ローカルファイナンスの可能性-

株式会社風と土と 阿部裕志 氏

株式会社風と土と
阿部裕志 氏

公益財団法人東近江三方よし基金 山口美知子 氏

公益財団法人東近江三方よし基金山口美知子 氏

令和3年2月24日に『第4回 ローカルSDGsオンラインセミナー -ローカルファイナンスの可能性-』を開催しました。

地域循環共生圏づくりプラットフォームの活動として、実践地域等登録制度企業等登録制度にご登録頂いている活動団体・企業の方々を対象に、オンラインセミナーを開催しました。

第4回は「ローカルファイナンスの可能性」をテーマに、地域資源を活用した取組を実践されている株式会社風と土と 阿部裕志氏、公益財団法人東近江三方よし基金 山口美知子氏にお越しいただき、地域での取組事例や取組を進める上でのポイントなどについて話題提供いただきました。

第4回オンラインセミナーの概要

日時令和3年2月24日(水)18:00~20:00
場所オンライン開催(ウェビナー方式で実施)
主催環境省
テーマローカルファイナンスの可能性
・循環する地域経済づくりの必要性と基本的な考え方を学ぶ。
・海士町や東近江での取組事例を通じて、地域で進めるためのポイントやローカルファイナンスによる可能性を知る。
登壇者株式会社風と土と 阿部裕志 氏
公益財団法人東近江三方よし基金 山口美知子 氏

講演①:株式会社風と土と 阿部裕志 氏

「株式会社 風と土と」での取組

「株式会社 風と土と」では、地域づくり事業や海士町での企業研修などを行っています。また、新しい出版社を立ち上げ、地域を舞台に新しい事業をつくっていきたいと考えています。「人と人、人と自然の温かい関係性ある未来を創りたい」と思っており、どういう未来をつくりたいのか、私たちはその岐路に立ち、日々選択しているなかで、どこに向かって仕事をしているのかを自覚しながらやっていきたいと思っています。海士町では、少子高齢化や財政難などの厳しい状態が続いていましたが、この状況は海士町だけではなく、この先の日本社会に起きることの縮図だと捉えられます。逆にいうと、この島に日本の未来をつくるヒントがあるのです。課題先進地であるならば、課題解決先進地になることで他の地域の役にも立てる。そのような気持ちで、いろいろな取組をしてきました。

仕事づくりと人づくり

一つは、仕事づくりです。イワガキの養殖に世界で初めて成功し、「春香」というブランドで売り出したり、細胞を壊さない冷凍技術(CASシステム)を導入し、鮮度の良いものを高値で飲食店に卸したり、地域にあるものを磨くことで、自立していくような取組を行っています。また、地域の未来を担う人づくりということで、島に一つしかない高校を存続させるために、この高校の「魅力化プロジェクト」を立ち上げました。島だからできないのではなく、島だからこそできる教育を目指して、島丸ごとをキャンパス、島民全員を先生、島の課題を教材と位置付け、その課題解決を考えるような魅力的な事業を作っていこうとしています。

さらに、2015年、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」をつくる際に、50歳以下限定で、自分たちの作った計画を、自分たちでやり遂げる意志のある人を公募する形でチーム「明日の海士をつくる会」を組みました。その中で成り行きの未来を目指すのではなく、どういう形で自分たちの意志のある未来をつくっていくのかということを議論してきました。理想の海士町のつながりをループ図で表現し、海士町の魅力を高めるために挑戦する人を増やす好循環をいかにつくるのかを考えました。

新たな挑戦が生まれ続ける仕組みづくり

新たな挑戦が生まれ続ける仕組み図

地域循環共生圏のプロジェクトでは、環境・経済・社会を同時に高める事業が、海士町から生まれ続ける仕組みをつくっています。「明日の海士をつくる会」からの派生として、官民連携の会社「AMAホールディングス」をつくり、民間の人も行政の人も一緒になって、これからの海士町について話をしている中で、少し方向性が見えてきました。まず、始まりは事業の種をいかに見いだしていくのか。そして、その種を事業検討していき、そこに何かしらの資金調達によって投資がされ、そこに人材も支援されることで、新規事業が生まれていく。そうすると、また新たな事業の種が生まれるというような形で、循環していくためには、何をしたらいいのかという検討を進めています。

地域内経済循環の見える化

まず事業の種として、実際に約100事業者へのヒアリングに基づき海士町版の産業連関表をつくることで、外貨を20.6億円獲得しているのに対して、50億円流出している、つまり30億円の赤字になっているという状況が分かりました。例えば、商業での流出のうち、12%が飲料で約1.5億円流出しています。地ビールや地ワインを作ることでどの程度の経済効果になるのか、どちらもプロジェクトを動かそうとしていますが、このような数字を根拠に、地域の経済循環を回していく取組を進めようとしています。

海士町未来共創基金

事業投資の部分では、「海士町未来共創基金」を立ち上げました。これは、ふるさと納税として役場に集まったお金の25~30%を、補助金として非営利型一般社団法人 海士町未来投資委員会に出すことで未来共創基金とし、そこに対して地元事業者から事業提案があって、いいと思った事業に対して寄付や補助をするという、島内の事業化を応援する仕組みです。この事業の目的は、魅力的で持続可能な島の未来のために、今までやってきた人づくりと仕事づくりの好循環をつくるための事業を生み出すことです。事業の選定理由などのプロセスを透明性高く公開するようにし、寄付や補助が行われた後でも、どのように進んでいるのかの事業報告もできるような形で進めようとしています。島で育った子どもたちが、帰ってきて起業したいという時や、地元の事業者が新しく起業したいという時に、未来共創基金が使えるようになればと思っています。

共感の力で経営する

共感の力で経営するということが、お金をどう回すのかと同時に大事なことだと思ってます。単に思うだけではなく、行動に移すから、人の共感が集まり、その共感する人に対しての関わり代(しろ)がある。ファイナンスという形で、お金をどう回すかという話もありますが、そこに加えて人の共感がどう好循環していくのかということもセットで考えないと、うまく回っていかないのではないかと思っています。

講演②:公益財団法人 東近江三方よし基金 山口美知子 氏

「東近江三方よし基金」を立ち上げた経緯

公益財団法人 東近江三方よし基金が、行政計画に初めて位置づけられたのは、東近江市の環境基本計画です。地域の課題を環境面だけではなく、経済面や社会面からも総合的に解決しようという意図で策定された全国でも珍しい計画で、地域資源を使うことで経済的なフローを生み出していくような取組も位置づけられています。公益財団法人 東近江三方よし基金は、自立のための経済的な仕組みということで、持続可能な東近江を実現してくために、必要な資金の調達や資金に関わる伴走支援等を担っていくという役割で設立されました。

都市に資金が流出してしまうことをなんとか回避したいという思いで、地域のお金の流れについての勉強会を始め、約1000億のお金が地域外に出ていっていることが分かりました。また、公益活動をするとなると、なんとか行政に補助金を出してもらえないかという話になりがちですが、地域の中でもっと回せるお金があるのではないかということを、私たちは地域のみなさんと共有していました。その中から、地域に財布が必要だということになり、東近江三方よし基金を作ろうということになりました。

「東近江三方よし基金」の役割と取組

外から調達をしてくる機能、中にあるものを回す機能、出ていくお金を少しでも減らす機能、この三つが大事な基金の機能だと思っています。公益財団法人の基本財産である300万円は、地元の方々の寄付で集めました。行政が拠出することもそんなに難しいことではなかったかもしれませんが、市民のみなさんから「それでは行政の基金になってしまう」という声もあり、市民のみなさんから寄付を集めるという形で、基本財産を作ることから始めました。

既に寄付を頂いて、さまざまな助成金を始めておりますが、それを評価する評価軸として、環境と経済と社会という評価軸を置くことを意識しています。環境はCO2排出量の削減や生物多様性への配慮、経済は地域経済への貢献度、社会はつながる時間(人と人、人と自然がつながること)を評価する軸として設定しています。昨年は、ガバメントクラウドファンディングという仕組みを活用し「東近江の森と人をつなぐ あかね基金」をつくり、事業募集を開始しました。

東近江市版ソーシャルインパクトボンド(SIB)

もう一つの社会的投資を広げるという目的で、2016年から「東近江市版ソーシャルインパクトボンド(SIB)」という仕組みを始めています。「東近江市版」という言葉がついているのは、一般的なSIBの仕組みとは違い、既存の行政の補助金を、成果報酬型に変えることに取り組んだからです。東近江市では、数年前からコミュニティービジネススタートアップ支援事業として、空き店舗の活用や地元の木材を使ったおもちゃの作成など、いろいろな提案に対して補助金を出していました。東近江市版SIBでは、手を挙げてくださったみなさんの資金調達を、まず社会的投資で集めて、成果が出たら、出資してくださった方々に金利をつけて償還をするという仕組みになっています。

この仕組みで一度、健康福祉分野の事業をやったことがあります。これまでは、中間的就労の場を提供してくださる事業者に補助金を出していたのですが、地域には働くのに少し工夫がいる若者がたくさんいるということや、このような場所があることで社会に出ることが比較的スムーズに進むということも、まだまだ理解されていませんでした。この仕組みを使って、地域のみなさんから出資をしていただいて、達成した成果を見える化することで、「こんな課題があったんだ」とか「この人たちには、うちの会社のこんな仕事もできるんじゃないの」というように、いろいろな気づきを地域に与えてくれました。

地域の中につながりをつくる

出資をしてくださった方々から「応援している事業者が成果を出してくれると、自分の喜びになります。応援したりアドバイスしたりと、楽しませてもらっています。」という言葉をいただきました。例えば、子ども食堂を始める前と始めた後で、出資をしていただくということだけではなく、様々なつながりが地域の中に増えているということが分かりました。まさに、社会関係資本の強化につながると思います。

資金循環の仕組みを作ることをミッションにしていましたが、お金は道具にすぎず、思いをつなぐためのお手伝いをすることが、この基金の役割だと思っています。環境・経済・社会の客観的なデータを見える化していくことで、この変化を地域のみなさんに知っていただき、そのような社会的インパクトを発信するような基金になることで、地域の社会変革につながるのではないかと思うようになりました。

ローカルガバナンスの仕組み

ESG投資のE(environment)とS(social)は、地域だと全く離れていません。私たちは、人と自然、人と人のつながりを継承していく取組を応援しているので、まさにEとSが同時に実現するようなプロジェクトが、地域に増えていると感じます。また、地域自治がどのように継承されていくかという発想で、私たちにとってのG(governance)であるローカルガバナンスの仕組みをもう一度考えながら、この資金循環の仕組みを支えていきたいと考えています。

意見交換

地域でローカルファイナンスの仕組みが生まれた背景やきっかけとして考えられるものはありますか?

阿部:海士町のこの20年ぐらいのまちづくりの動きというのは、本当の意味で島を守るためには攻めないと守れないということで、行政がすごく頑張ってくれていました。一方で、世代交代もある中で、役場はあくまでも守りに強みを持っていくことになるだろうという話をしていました。では、攻めの機能をどうするのかということで、AMAホールディングスという会社や半官半Xという言葉が出てきました。その中で、お金の循環を考える機運があったのと、一方で、海士町のファンの人たちの力を引き出しながらできることも考えているタイミングでした。ふるさと納税については、カタログギフトのように単に増やすのではなく、海士町にご縁のあった人たちからの応援を、丁寧に紡いでいく形で基金として集めて、地域のチャレンジに使わせていただくことで、大きな応援や共感によって事業が押し出されるような形にするとよいのではないかという議論があり、それを形にしたという流れです。

山口:東近江市は、1市6町が市町村合併しているのですが、すごく広いまちになったことで、昔のように、地域の方に対して行政と一緒にやりましょうと言うことが難しくなっていました。そんな時に、地域の方々の、自分たちの財布を持ちたいという思いが強くなっていくのを感じました。勉強会を始めたのは10年以上前ですが、当時は行政以外の資金として何があるのか、あんまり見えていませんでした。でも、数年たって、いろいろなお金の動きが見えてきたことで、いよいよ地域で動かないといけないのではないかという思いが集まったのが、大きかったと思います。また、東近江は、長い歴史の中で、自分たちの地域のことは、自分たちでなんとかしないといけないというDNAが脈々と残っていて、日々、新しい提案や新しい夢を持ち込んでくださる地域でもあります。その両方が、今の時代にぴったり整ったということかなと思います。

定量的な指標を作ることによる効果として、地域内での合意形成や地域間での連携など感じておられることはありますか?

阿部:数字の活用についてはまだ模索中ですが、例えば、地ビールや地ワインを作るために予算を確保するときなど、役場の中での説明はしやすくなるのではないでしょうか。また、地域内の経済循環を高めるために1人1%のお金の流れを変えることで、どのくらいの金額が変わるのかシミュレーションできます。最終的には、海士町の地域通貨「ハーン」も活用し、円と等価ではない島内価格を実現するなど、2本立てで回ると面白いと思っています。

山口:滋賀県では、県の研究センターが将来像を推計できるモデルを作っており、東近江市でも、描いた将来像を計算できるモデルがあるというのが地域の最大の強みだと思っています。基金を作ったときに、どのくらい地域に循環が生まれるのかなど、規模感を共有するのには便利な道具でした。また、みなさんの行動の1%を変えるだけで、5億とか6億の資金が地域内に循環する、それだけあればかなりのことできるという感覚に、シフトができたということは大きかったです。

行政との連携は必要でしょうか?また、行政としては、どのようなスタンスでいることが重要でしょうか?

阿部:海士町のような人口規模の小さいまちでは、社会的な役割としても、経済圏としても、行政の役割はとても大きいです。行政と連携しなくてもできることもあると思いますが、なるべくうまく連携した方がいいと思っています。例えば、わざわざ休みの日に地域の集まりなどに出てきてくれる職員の人というのは、実は一番の味方にすべき仲間だと思います。行政だから、民間だからというのを全部外して、人として同じ地域を良くする仲間として向き合えるかどうかが、問われているのだと思います。立場を後にして、個と個の人を先に持ってこないと、仲間は増えないのではないでしょうか。

山口:行政も50年後に東近江市があるかどうかも分からないような時代に入っている中で、自分の立場を守るだけでは、地域が立ちゆかなくなるという実感は共有できているような気はします。一方で、具体的にどうしていいかが分からないから、怖くて出ていけないという人も多いです。民間のみなさまには言いにくいのですが、もし余裕があるなら、行政の困り事に寄り添っていただけると、自分たちの思っているように動いてもらえる可能性が高いと思います。行政でほぼ共通している課題はお金がないということだと思いますが、そのような困り事の端っこが見えたときがチャンスです。そのような困り事を表に出すことで、地域のみなさんが0から一緒に考えてくださるということを私は何度も経験しているので、やりたいけどできないことを行政が地域のみなさんに伝えるということは大事だと思っています。

ローカルファイナンスの仕組みをつくるにあたって、苦労された点やポイント等はあるでしょうか?

阿部:結局は、誰がやるのかということが重要です。絵空事はたくさん言えますが、動かすのが一番難しい。海士町の場合は、ふるさと納税を増やさない限り意味がなかったので、かなり泥臭く、手を動かすことの連続でしか、この絵(未来共創基金)は成り立っていません。一番苦労するのは、やはり人だと思います。

山口:活動したい団体や企業はたくさんいたのですが、その資金循環をかなえたり、仕組みを支えたりする人がいませんでした。その中で、役所は職員を出すけれども、お金は出さないということを最初に約束をして、私がその事務局に関わるようになりました。東近江に学びに来た地域でも、行政が半分以上手伝っていたり、まずは中間支援のNPO組織に基金の機能も担ってもらおうとしたり、地域ごとに工夫しながらやっておられると思います。私もガバメントクラウドファンディングを始めたときには、毎晩何百人にも直接メッセージ送って、なんとかぎりぎり達成したように、地道なことの積み重ねで、ちょっとずつ経験を積んで、気づいたら事務局になっていたという感じです。

阿部:いろんな人が事業に手を挙げたくなるような仕掛けやそのために工夫されていることはありますか?

山口:「ちょっと困った」とか「こんなことをやらないといけないと思ってるんだけど」というセリフを聞いたら、すぐ出掛けていってその人と話をしています。また、地元の新聞社がいろいろな募集を載せてくれるのですが、必ず説明会をやって、さらに個別の説明会もやって、申請までに何度も面談をするようなことが日常になっています。一方で、どうしても不採択になった団体への伴走支援を絶対にするようにしており、地域に必要なことに向き合おうとしてくださってる姿勢自体は何ら否定されるものではないので、別の資金調達の手段や資金調達以外の解決策を一緒に考えています。そうすると、次の提案がブラッシュアップされて、採択につながることもあるので、そのようなことに気を遣っています。

最後に、参加者のみなさまへ一言いただけますか?

阿部:「知の自立」と言えばいいのかもしれないですが、自分たちがこれからどうしていきたいのかということを、自分たちで考えられる力がないと、国策や外部のコンサルタントに振り回されてしまいます。「知の自立」ができる地域をどうやって作っていけるのかということはずっと私自身のテーマですが、お金についても、その考え方を自分たちで考えることが大事なんだと思います。引き続き、みなさんと学び合いながら、それぞれの地域が良くなればいいと思っています。

山口:様々な災害が増えていく時代の中で、遠くの誰かがなんとかしてくれるという概念が、おそらく破綻しているということは、みんな気づき始めていると思います。でも、遠くの誰かがなんとかしてくれることを期待しているほうが、日々は楽なのかもしれなくて、それに慣れてしまったのが今なのかなと思っています。自分たちの地域の暮らしを自分たちがどう守っていけるのかというのは、全ての地域に突きつけられてる課題でもあり、実はチャンスでもあると思っています。東近江でも、春からコロナで影響を受けた方々に対して、こんなことやらないといけないんじゃないかという声をたくさん頂きました。そういうことを一緒に考えて、一緒にできる地域で良かったなと思っていますし、もっともっといろいろな方にも知っていただきたいと思っています。こんな地域やこんなふうに動ける人たちが、全国に増えていき、そのネットワークの中で学び合いができれば、ほんとに日本が大きく変わっていくと思います。ぜひ、自治というものを、もう一回地域の方々と考えてもらえるような、きっかけにしてもらえたらいいなと思います。

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